群馬大学大学院 医学系研究科皮膚科学 > 研究 > 安田グループ

研究

安田グループ

研究室紹介

研究メンバーLABORATORY MEMBERS

安田 正人(グループ責任者)
栗山 裕子
山崎 咲保里
井上 裕太
齋藤 晋太郎

研究テーマ

表皮角化機構・角化症研究
部位特異的表皮角化機構の解明

皮膚の最外層に位置する表皮は、体の各部位に合わせ、その生化学的特性や組織学的構造を大きく変化させています。 例えば、手の平・足の裏(掌蹠)は、体の皮膚とは異なり、厚い表皮有棘層と角層を持つことで大きな荷重や外力に耐えうる構造をとっているわけです。 Circumscribed palmoplantar hypokeratosisは、掌蹠の皮膚の一部が体幹の皮膚のようになってしまう稀な皮膚病です。この皮膚病を解析することで、掌蹠の皮膚と体幹の皮膚の違いを明らかにできると考えています (Br J Dermatol 2011)。

部位特異的表皮真皮相互作用の解析

掌蹠や口腔粘膜など部位によって異なる表皮構造は、その下の真皮線維芽細胞から分泌される因子によって制御されていることが明らかになっています。 つまり、真皮線維芽細胞もからの部位によって、大きく変化しているわけです。真皮線維芽細胞はコラーゲンなどの多くの細胞外基質を分泌することで皮膚の柔軟性、弾力性を維持していますが、これまでに私たちは、体幹の真皮線維芽細胞はファイブロネクチンという細胞外基質が、掌蹠の真皮線維芽細胞はデコリンというプロテオグリカンを多く分泌することで、その機能に影響を与えていることを明らかにしています (Br J Dermatol 2006, Exp Dermatol 2016)。

乾癬ならびに関連疾患の臨床研究

乾癬はこの15年で治療が急速に進歩し、治療薬も増えてきていますが、患者さん一人ひとりにとって、どの薬剤が適しているのかは使ってみないとわかりません。そのため、実際に患者さんに対して使われた薬剤の効果や副作用を集積していく必要があります。現在、当科では様々な薬剤についてその有効性と安全性を評価するための臨床研究を行っています。
また、乾癬は皮膚だけでなく、関節や血管、腸などさまざまな臓器に影響を与える全身性炎症性疾患と認識されるようになっています。肥満などのメタボリック症候群との関連も指摘されているため、内分泌糖尿病内科と共同で、肥満症を合併する患者さんに対して、栄養指導や減量指導ならびに治療を行うことで、乾癬の病勢への影響を解析しようとしています。
これまでには、日本における膿疱性乾癬診療の現状を明らかにし、治療状況を解明するための多施設共同研究に参加し、日本のGPP患者205例を10年間後方視的に解析しました。生物学的製剤使用が25%から80%へ増加し、増悪時には新規生物学的製剤が最多で導入される一方、生物学的製剤使用中でも増悪が生じる例があると報告した(Dermatol Ther 2025)。また、グループ責任者の安田はアジア10カ国の皮膚科医とともにGPPワークショップに参加し、GPPの迅速な専門医紹介と教育の重要性について議論しました(Dermatol Ther 2022)
さらに現在、稀な炎症性角化症である毛孔性紅色粃糠疹の日本における実態を調査するための多施設共同研究を実施し、27施設から144名の臨床症状、治療経過などの情報を収集し、解析を行っています。

角化症の病態解明

乾癬、ダリエ病、掌蹠角化症など表皮に異常を生じるたくさんの疾患があり、その病態は少しずつ明らかになってきていますが、治療に結びついているものは多くありません。共同研究者とともに様々な角化性疾患の遺伝子異常を解明し、治療への応用を模索しています(J Hum Genet 2021; J Dermatol 2022, 2018)。

参考文献:
  • Strober B, et al. Unmet Educational Needs and Clinical Practice Gaps in the Management of Generalized Pustular Psoriasis: Global Perspectives from the Front Line. Dermatol Ther 2022; 12, 381–393.
  • Okubo Y, et al. Treatment Status for Generalized Pustular Psoriasis in Japanese Patients: A Retrospective Chart Review. Dermatol Ther 2025: 15, 1883–1899.
  • Yasuda M, et al. Circumscribed palmar hypokeratosis on both hands: distinct keratin expression in multiple depressed lesions. Br J Dermatol 2011; 164(1): 211-3.
  • Yasuda M, et al. Spatial expressions of fibronectin and integrins by human and rodent dermal fibroblasts. Br J Dermatol 2006; 155(3): 522-31.
  • Yasuda M, et al. Palmoplantar collagen bundle size correlated with a characteristic spatial expression of decorin and lumican. Exp Dermatol 2016; 25(4): 318-20.
  • Tahara U, et al. Autosomal dominant familial acanthosis nigricans caused by a C-terminal nonsense mutation of FGFR3. J Hum Genet 2021; 66(8): 831-834.
  • Kuriyama Y, et al. Focal palmoplantar keratoderma in a patient with the KRT6B mutation. J Dermatol 2022; 49(3): e111-e112.
  • Yasuda M, et al. Familial acanthosis nigricans with the FGFR3 mutation: Differences of pigmentation between male and female patients. J Dermatol 2018; 45(11): 1357-1361.
皮膚悪性腫瘍研究

皮膚悪性腫瘍は、悪性黒色腫、有棘細胞癌、基底細胞癌、乳房外パジェット病、エクリン汗孔癌、メルケル細胞癌など非常に多彩です。多くの場合、手術により切除することで根治が可能であり、早期発見が最も重要です。私たちはcapillaroscopyという細い毛細血管も詳細に観察できる顕微鏡型カメラを用いて皮膚悪性腫瘍の早期発見を目指す臨床研究を行っています(Acta Derm Venereol 2022)。皮膚悪性腫瘍は一つ一つが稀であるため、その病態も明らかでなく、また、手術で根治する方が多いことから進行した場合の治療方法も少ないのが現状です。単一施設のみでは十分な研究が行えないため、多施設共同で、様々な皮膚悪性腫瘍の病態解明、治療方法の確立のための解析を行っています(Eur J Surg Oncol 2025; Surgery 2025; JCO Glob Oncol 2025; J Dtsch Dermatol Ges 2022; Eur J Cancer 2021,2020; J Dermatol Sci 2020; J Immunother Cancer 2020; JAMA Dermatol 2015)。
当科を中心とし、全国27施設で2010〜2020年に化学療法を受けた切除不能悪性汗器官腫瘍81例を対象としてレトロスペクティブに解析を行いました。解析は治療の多かった白金製剤系(37.0%)、タキサン系(43.2%)、TS-1(12.3%)に分けて行ったが奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)に有意差はありませんでした。全体の中央値OSは29.0か月、5年生存率は34.0%、組織型別解析では汗孔癌が独立した予後不良因子であり、中央値OSが15.0か月と短いことが示されました(JJCO Glob Oncol 2025)。

参考文献:
  • Saito S, et al. Effectiveness and prognosis of systemic chemotherapy for unresectable malignant apocrine and eccrine tumors: A real-world multicenter retrospective study. JCO Glob Oncol in press.
  • Koizumi, S. et al. Comparing 2 cm vs. 1 cm surgical margins in acral melanoma of the sole with Breslow thickness greater than 2 mm: A multicenter retrospective study of 336 Japanese patients. Eur J Surg Oncol 2025; 51, 110264.
  • Koizumi, S. et al. Prognosis of a deep excision margin within or beyond subcutaneous fat for invasive acral melanoma of the sole: A multi-institutional retrospective study. Surgery 2025; 186, 109573.
  • Koizumi, S. et al. Adjuvant Anti–PD-1 Monotherapy Versus Observation for Stage III Acral Melanoma of the Sole: A Multicenter Retrospective Study in Japanese Patients. JCO Glob Oncol 2025; 11, e2400644.
  • Saito S, et al. Capillaroscopy in Pigmented Basal Cell Carcinoma Smaller than 3-mm Diameter: A Report of Four Lesions. Acta Derm Venereol 2022; 102
  • Baba N, et al. Narrower clinical margin in high or very high-risk squamous cell carcinoma: a retrospective, multicenter study of 1,000 patients. J Dtsch Dermatol Ges 2022; 20(8):1088-1099.
  • Fujisawa Y, et al. Outcome of combination therapy using BRAF and MEK inhibitors among Asian patients with advanced melanoma: An analysis of 112 cases. Eur J Cancer 2021; 145: 210-220.
  • Ogata D, et al. Systemic treatment of patients with advanced cutaneous squamous cell carcinoma: response rates and outcomes of the regimes used. Eur J Cancer 2020; 127: 108-117.
  • Nakamura M, et al. Increased programmed death ligand-1 expression in metastatic Merkel cell carcinoma associates with better prognosis. J Dermatol Sci 2020; 97(2): 165-167.
  • Nakamura M, et al. Glucose-6-phosphate dehydrogenase correlates with tumor immune activity and programmed death ligand-1 expression in Merkel cell carcinoma. J Immunother Cancer 2020; 8(2): e001679.
その他

大阪大学、山形大学、岡山大学と共同で、2013年に社会問題となったロドデノール配合化粧品により生じた白斑について解析を行いました(J Dermatol Sci 2020)、また、株式会社資生堂と共同し、紫外線による皮膚の変化(光老化)が、表皮真皮接合部におけるラミニン511の低下を介して、表皮幹細胞の減少をきたすことを明らかにしました(Sci Rep 2020)。

参考文献:
  • Yasuda M, Sekiguchi A, Kishi C, et al. Immunohistochemical analysis of rhododendrol-induced leukoderma in improved and aggravated cases. J Dermatol Sci 2020; 99(2): 140-143.
  • Iriyama S, Yasuda M, Nishikawa S, et al. Decrease of laminin-511 in the basement membrane due to photoaging reduces epidermal stem/progenitor cells. Sci Rep 2020; 10(1): 12592.

グループのメンバーの受賞

安田 正人

■2019年度群馬大学医学部附属病院GCP賞

栗山 裕子

■2014年第78回日本皮膚科学会東部支部学術大会ポスター賞

■2019年群馬大学大学院社会貢献プログラム優秀賞

■2021年第120回日本皮膚科学会総会優秀演題賞

■2021年第68回北関東医学会総会優秀演題賞

2023年第122回日本皮膚科学会総会優秀演題賞

2025年第124回日本皮膚科学会総会優秀演題賞

山崎 咲保里

2022年第26回北関東医学会奨励賞

井上 裕太

2024年北関東医学会奨励賞

齋藤 晋太郎

■2020年日本皮膚科学会・雑誌論文賞

グループの特徴

皮膚は人体最大の臓器と言える組織ですが、一口に皮膚と言っても、頭皮、唇、体、手のひら・足の裏など部位によって、その性状や機能は大きく異なります。再生医療が盛んに研究されている昨今ですが、体中の皮膚を再生させるためには皮膚のそれぞれの部位の違いを明らかにしていくことが必要になります。また、それぞれの部位や構造から様々な皮膚悪性腫瘍が発生します。皮膚の違いが明らかになれば、皮膚悪性腫瘍の治療への応用も期待できるかもしれません。皮膚にはまだまだ不思議なことがたくさんあります。興味がある方は、是非一緒に研究しましょう。

共同研究者

吉野 聡(群馬大学医学部附属病院 内分泌糖尿病内科)
高橋健造(琉球大学医学部 皮膚科学教室)
清水 晶(金沢医科大学 皮膚科学)
中村泰大(埼玉医科大学国際医療センター 皮膚腫瘍科・皮膚科)
藤澤康弘(愛媛大学大学院医学系研究科 皮膚科学教室)
中村元樹(名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科)
緒方 大(国立がん研究センター中央病院 皮膚腫瘍科)
葉山惟大(日本大学医学部附属病院板橋病院 皮膚科)

トップへ戻る