関口 明子(グループ責任者)
井田 梓
馬 弋然
中村 英玄 (群馬大学形成外科)
横山 洋子
荻野 幸子
鳥居 良子
綿貫 有希
私たちは、全身性強皮症、限局性強皮症、硬化性萎縮性苔癬などに代表される皮膚硬化性疾患を対象に、病態の理解と新たな治療法の開発を目指した研究に取り組んでいます。とくに全身性強皮症では、皮膚の硬化だけでなく免疫異常や血管障害など、全身にわたる多彩な症状が問題となるため、これらの背景にあるメカニズムを明らかにし、治療につなげることが重要です。
これまでに私たちは、患者さんの皮膚から得た線維芽細胞や強皮症モデルマウスを用いて、皮膚線維化や血管障害に関与する分子機構の解析を進めてきました。抗酸化物質であるケンフェロールが皮膚における酸化ストレスを軽減し、線維化を抑制する可能性を示したほか、国立感染症研究所や理化学研究所との共同研究では、Th17細胞と制御性T細胞のバランスの乱れが線維化の進行に関わっていることを突き止め、免疫調節を通じた新たな治療戦略の可能性を見出しています。また、マウスおよび患者検体を用いた腸内細菌叢の解析からは、腸内環境が免疫の調整や皮膚の線維化に影響を与えていることが示唆されました。
さらに、mTOR阻害薬であるシロリムスの外用が強皮症モデルマウスにおける皮膚線維化を抑制することも確認しており、これまで治療の難しかった皮膚硬化に対する新たな局所治療の選択肢としての応用が期待されます。
群馬大学では、長年にわたり強皮症の診療に力を入れており、豊富な診療経験に基づいて、血管障害や食道病変、排尿障害など多様な合併症に関する臨床研究も他診療科と連携して行ってきました。こうした日常診療での疑問を出発点とし、基礎的な知見を積み重ねながら、難治性疾患の理解と未来の治療につなげていくことを目指しています。
■Sekiguchi A, et al. Inhibition of skin fibrosis via regulation of Th17/Treg imbalance in systemic sclerosis. Sci Rep 2025;15:1423.
■Sekiguchi A, et al. Topical sirolimus suppresses skin fibrosis in a bleomycin-induced mouse model of systemic sclerosis. J Dermatol Sci 2025;118:45-48.
■Sekiguchi A, et al. Inhibitory effect of kaempferol on skin fibrosis in systemic sclerosis by the suppression of oxidative stress. J Dermatol Sci 2019; 96: 8-17.
■Sekiguchi A, et al. Prevalence and clinical characteristics of earlobe crease in systemic sclerosis: Possible association with vascular dysfunction. J Dermatol. 2020;47:870-875.
■Motegi SI, Sekiguchi A, et al. Prevalence and clinical characteristics of overactive bladder in systemic sclerosis. Mod Rheumatol. 2020;30:327-331.
■Motegi SI, Sekiguchi A, et al. Demographic and clinical characteristics of spinal calcinosis in systemic sclerosis: Possible association with peripheral angiopathy. J Dermatol. 2019;46:33-36.
■Motegi SI, Sekiguchi A, et al. Extragenital lichen sclerosus successfully treated with narrowband-UVB phototherapy. Eur J Dermatol. 2018;28:710-711.
■Motegi SI, Sekiguchi A, et al. Successful treatment of Raynaud’s phenomenon and digital ulcers in systemic sclerosis patients with botulinum toxin B injection: Assessment of peripheral vascular disorder by angiography and dermoscopic image of nail fold capillary. J Dermatol. 2018;45:349-352.
私たちは、褥瘡や糖尿病性潰瘍などに代表される難治性皮膚潰瘍の病態と治療に関する基礎・臨床研究に取り組んでいます。特に、超高齢社会において深刻な問題となっている褥瘡に注目し、その発症・難治化の背景との関連を研究してきました。褥瘡は高齢者の生活の質を大きく損なう疾患であり、さらに医療費や介護負担の増加といった社会的影響も無視できません。私たちは、こうした背景をふまえ、より効果的な予防・治療法の確立を目指しています。これまでに、褥瘡モデルマウスを確立し、ボツリヌス毒素や間葉系幹細胞の局所投与によって潰瘍形成を抑制できることを示しました。これらの成果は、褥瘡の新たな治療戦略につながる可能性を示唆しています。また、亜鉛欠乏が褥瘡の発生・遷延に関与することを明らかにし、経口的な亜鉛補充により創傷の改善が期待できることを報告しました。高齢者では潜在的な亜鉛欠乏がしばしば見逃されており、積極的な血清亜鉛値の測定と補充が、褥瘡の治療だけでなく予防にもつながると考えられます。これらの研究成果は、2019年度日本褥瘡学会 大浦賞を受賞するなど、一定の評価をいただいています。今後も、科学的根拠に基づく創傷管理の実現に向けて、基礎と臨床の両面から取り組みを進めていきます。
■Nakamura H, Sekiguchi A, et al. Zinc deficiency exacerbates pressure ulcers by increasing oxidative stress and ATP in the skin. J Dermatol Sci. 2019;95:62-69.
■Sekiguchi A, et al. Botulinum toxin B suppresses the pressure ulcer formation in cutaneous ischemia-reperfusion injury mouse model: Possible regulation of oxidative and endoplasmic reticulum stress. J Dermatol Sci. 2018;90:144-153.
■Motegi SI, Sekiguchi A, et al. Protective effect of mesenchymal stem cells on the pressure ulcer formation by the regulation of oxidative and endoplasmic reticulum stress. Sci Rep. 2017;7:17186.
皮膚科では、ウイルス性イボや加齢によるイボに対して、液体窒素を用いた凍結療法がよく行われています。治療の際、凍結直後に医師が指先で患部を温めて急速に解凍するという手技が、長年慣習的に行われてきました。しかし、これまでこの方法に科学的な裏付けはありませんでした。そこで私たちは、液体窒素による凍結治療のモデルマウスを作製し、急速に解凍解凍することが治療効果に与える影響を実験的に検証しました。その結果、冷凍直後に患部を温めることで、より効果的に組織を破壊できることを世界で初めて明らかにしました。この研究成果は、国際誌Journal of Dermatological Science に発表しました。私たちは、このように日々の診療に潜む「なぜ?」という疑問に正面から向き合い、科学的根拠に基づいた医療の確立を目指して研究を進めています。現場に根ざした発想を大切にしながら、患者さんの治療に本当に役立つ知見を生み出していくことが、私たちの使命です。
■Sekiguchi A, et al. Rapid thawing enhances tissue destruction in a mouse model of cutaneous cryoablation: Insights into oxidative stress and neutrophil activation. J Dermatol Sci. 2025;118:9-17.
グループ責任者は、米国National Institutes of Health(NIH)に留学し、重症薬剤アレルギーの病態解明において、シングルセルRNAシークエンスなどの先端的手法を用いた研究に携わりました。そこで培ったバイオインフォマティクスの知識と技術を活かし、今後はこれまでのウェットな研究に加えて、データ駆動型のアプローチも積極的に取り入れていく方針です。臨床と基礎をつなぐ新しい視点を大切にしながら、より精緻な病態理解と治療戦略の構築を目指しています。
私たちの研究室では、日々の診療の中で生まれる「なぜ?」という問いを大切にしながら、強皮症や難治性皮膚潰瘍などの疾患に対して、基礎と臨床の両面から研究を進めています。免疫や血管、腸内細菌、酸化ストレスなど、さまざまな視点から病態に迫り、実際の治療に活かせる知見を積み重ねてきました。研究のテーマは、現場に根ざしたリアルな課題ばかりで、医療と研究をつなぐやりがいを実感できます。落ち着いた雰囲気の中で、異なる専門性を持つメンバーと協力しながら、自分のペースで着実に力を伸ばせる環境です。少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ気軽に覗いてみてください。
大野 博司(理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム)
加藤 完(理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム)
久枝 一(国立感染症研究所寄生動物部)
下川 周子(国立感染症研究所寄生動物部)
岩脇 隆夫(金沢医科大学総合医科学研究所細胞医学研究分野)